首曳きの唄/栗栖真理亜
 
て、逃げ腰になってるその女子に向かってわざとニヤリと笑いかけてやった。
「ヒッ!」
女子はぶるっと体を震わせると、一瞬紙のように真っ青になった顔になり、断末魔のような叫び声をあげながら慌てて逃げ去って行った。
僕はしばらく彼女が逃げていった跡を眼で追って行きながら満足そうに喉を鳴らしていたが、彼女の姿が完全に見えなくなると再びロッカーの扉に眼を移した。
ためらうことなく一息で扉をこじ開けると、小さな四角い空間に目を凝らす。
そこは案の定、何もなかった。
僕は手を伸ばして四角い暗闇を隈なく探ってみた。
カサリ。
何か絵の具が乾いた感じの半粉状のものが指先に付いたような
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