柔らかき手の殺意/栗栖真理亜
いるはずの手の存在は跡形もなく、ただ、電灯に照らされて、ほのかに明るい夜の闇がぼんやりと部屋の隅々までを映し出していた。
ぼくは・・・息をしていなかった。
まるで、人形のように、口からも鼻からも呼吸の出入りが感じられない。
それにもかかわらず、不思議と苦しくなかった。
僕は急いで鼻から酸素を送り込もうとした。
一気に酸素を吸入したためか、思いっきり、ゴホゴホと咳き込んでしまった。
少し落ち着くと次第に頭が冴えてきて、状況を冷静に把握することが出来た。
おそらく、寝ている間に何らかの原因で、呼吸が止まってしまったのだろう。
それが夢の中では、“首を絞める手”という形で
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