柔らかき手の殺意/栗栖真理亜
 
い頭を持ち上げた。
しかしそこには誰の姿をも確認できなかった。
ただ優しく叩く振動のみが体に伝わっていた。
(おかしい)
僕は正体を探して不自由な体を無理やり起こそうとした。
半ばまで起こし掛けた時、ちらっと、白く滑らかな手だけが見えた。
僕の脳裏にある人物が思い浮かんだ。
「母さんっ!?」
僕は期待に胸を膨らませながらガバッと体を起こして叫んだが、やはりそれに応える声はおろか、姿さえも見えなかった。
それからというもの,夜になると日増しに白い手が僕のところへ忍び寄ってくるようになった。
それは決まって誰もが寝静まった丑三つ時で、何か怨念に取り付かれたかのように
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