柔らかき手の殺意/栗栖真理亜
ら記憶を手繰り寄せても何の手掛かりも見つからない。
その手が初めて僕の前に現れたのは僕が風邪で寝込んでいた時だった。
部屋には付き添ってくれる者は誰も居らず、僕はただひとり、熱で全神経を侵されて気だるくなった体をベッドに横たえながら、うつらうつらとしていた。
僕はあの頃死にたいほど孤独だった!
ただ誰かに傍にいて欲しかった。
その思いが通じたのか、気がつけば何時の間にかポンポンと、まるであやすかのように布団の上から体をたたく感触が伝わってきた。
それは母親が我が子に愛情を持って接する仕種にも似て、不思議と安らぎを覚えた。
僕は相手を見極めようと、朦朧とした意識の中で重い頭
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