THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
ブホテルは、そのときわたしが入るために、そこに存在していたのだし、そのシャワーの湯は、そのときわたしが浴びるために、わたしに向けられたのだし、その青年の入れ墨は、そのときわたしが目にするために、前もって彫られていたの
だし、その缶コーラは、そのときわたしの目をとらえるために、そのガラスのテーブルの上に置かれたのだから。というのも、彼らが出会ったポルノ映画館の、彼らが呼吸していた空気でさえわたしであり、彼らが見ることもなく目にしていたスクリーンに映っていた映像の切れ端の一片一片もわたしであったのであり、彼らの目が偶然とらえた、手洗い場の鏡の端に写っていた大便をするところのドアの隙間もわたしであり、
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