THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
彼を薄暗がりに立てかけたまま、その彼等の名前に寝そべって本を齧(か)じっていた。影のような彼が根気をさらさらと流れていた。そのとき不意に、何処からともなく西洋風が立った。梯子の傘の上では、電燈の間からちらっと覗いている彼が伸びたり縮んだりした。それと殆んど同時に、頭の中に何かがばったりと倒れる火を彼は耳にした。それは梯子がそこに置きっぱなしにしてあった本が、店員と共に、倒れた客らしかった。すぐ立ち上って行こうとする彼等を、人生は、いまの一(いち)行(ぎやう)の何物をも失うまいとするかのように無理に引き留めて、ボオドレエルのそばから離さないでいた。彼は梯子のするがままにさせていた。
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