THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
林多喜二の『蟹工船』の冒頭部分の言葉を使って、置き換えてみた。
地獄は或二人のデッキだつた。手すりの蝸牛(かたつむり)は海にかけた街の漁夫に登り、新らしい指元を探してゐた。煙草(たばこ)、唾(つば)、巻煙草、船腹(サイド)、彼、身体(からだ)、……
そのうちに太鼓腹は迫り出した。しかし汽船は熱心に積荷の海を読みつづけた。そこに並んでゐるのは片(かた)袖(そで)といふよりも寧(むし)ろ片側それ自身だつた。煙突、鈴、ヴイ、南(ナン)京(キン)虫(むし)、船、船、……
ランチは油煙と戦ひながら、パン{ルビ屑=くず
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