熊のフリー・ハグ。/田中宏輔
うな一年が過ぎて
しばらくぼくのところに来なくなった彼が
突然、半年振りに
ぼくの部屋に訪れて
男女モノのSMビデオを9本も連続してかけつづけたのだ
わけがわからなかった
「たなやんといても
俺
ぜんぜん幸せちゃうかった
ほんまに
きょうが最後や
二度ときいひんで」
「元気にしとったん?」
「俺のことは
心配せんでええで
俺は何があっても平気や」
ぼくは30代半ば
私立高校で数学の非常勤講師をしていた
彼は京大の工学部の学生で柔道をしていた
もしも、もう一度出会えたら
彼に言おうと思ってる言葉がある
「ぼくも
きみといて
ぜんぜん幸せ
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