熊のフリー・ハグ。/田中宏輔
には
三年前に死んだ彼の母親もぶらさがっていた
母親の死体はまだまだ元気で
けっして彼から離れそうになかった
その母親の首には
彼の祖父母にあたる老夫婦の死体がぶらさがっていた
もうほとんど干からびていたけど
そんなに軽くはないわね
わたしの目の前を彼が通る
机の角がわたしの腰にあたった
彼の足下にしがみついて離れない
去年の暮れに死んだ彼の奥さんが
わたしの机の脚に自分の足をひっかけたのだ
いつもの嫌がらせね
バカな女
でも彼のやつれた後ろ姿を目にして
彼とももうそろそろ別れたほうがいいのかなって
わたしはささやきつぶやいた
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