数式の庭。原型その2/田中宏輔
言葉というものが、つねに受け手の存在によってしか
その存在できないという立場から
詩人は、こんなことを言っていた。
「言葉はね。
ぼくのなかにもあって
それと同時に、ぼくの外にもあるものなんだ。
たとえば、きみが、空に浮かんだ雲を指差して
雲、と言ったとするだろ。
ぼくが、きみの言葉を聞いて
空を見上げたとしよう。
そこに雲があるかないかで違うけれど
いまは、きみが、雲と言って
雲が浮かんでいたとしよう。
ぼくは、きみの言葉から導かれて
雲に目をやったのだろうけれど
ぼくの目は、その雲を見るのだろうけれど
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