数式の庭。原型その2/田中宏輔
もしも、世界に、ただひとりの存在者しかいないとしたら、あるいは、こう仮定したほうがよいであろう、もしも、ただひとりの存在者しかいない世界があるとしたら、その存在者にとって、現実とは、いったいどのようなものであろうか。観察し解釈し解析するものがいない世界での現実とは、いったいどのようなものであろうか。そもそものところ、そこには現実というものがあるのかどうか。
数式がただひとつしかない世界があるとして、はたして、その数式は、意味をもつものであるのだろうか。観察し解釈し解析する人間がいなくて。自らの姿をのぞき見ることのできる鏡もなくて。
おそらくそのただひとりの存在者は、どうにかして、自分
[次のページ]
戻る 編 削 Point(12)