数式の庭。原型その1/田中宏輔
わたしが名辞と形象を与えた
ひとつのコップである。
存在する
存在した
存在するであろう
すべての名辞と形象を入れても
けっして満ちることはないコップである。
これを手にして立つわたしをも
わたしが存在している数式の庭ごと
そのコップは
なかに入れることもできるのである。
*
人間は
おそらく他の人間といっしょにいなければ
他の人間といっしょにいる時間がまったくなくなってしまえば
自分が人間であるということに気づくこともなく
自分が人間であることを知ることもなく
自分が人間である必要性も感じることもないのではなかろ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(13)