数式の庭。原型その1/田中宏輔
 



それは
数と記号の偽物だった。
数と記号に擬態した偽物から後ずさりながら
ただちに退却しなければならないと
わたしは思った。
ゴム状に固体化したエクトプラズムの綱が
わたしの足にまとわりついた。
あたりを見回すと
数多くのわたしが、たちまち
エクトプラズムの網に捕らわれていった。
とても濃いエクトプラズムに覆われた
花壇を眺めていると
つぎつぎと自分のなかから
自我が消失していく感覚に襲われた。
わたしは
数式の庭に背を向けて
いそいで立ち去った。


*


手を離しても
落ちないコップがある。

[次のページ]
戻る   Point(13)