数式の庭。原型その1/田中宏輔
 

ひとつの花が咲いていたのだが
その花のはなびらにあった≠に目を凝らすと
切った爪ほどの大きさのわたしが
片肘をかけて等号に寄りかかっていた。
わたしは、その爪の先ほどの大きさのわたしをつまみあげて
下におろすと
もとの数式に目を戻した。
式は見違えるほどに美しくなっていた。
その美しさに目を奪われて
わたしは
わたしの小さな姿がどこに行ったのか
わからなくなっていた。
ぱっと目に見える範囲には
いなかった。


*


この花壇の花は
わたしが位置を変えると
違った花に見える。
まるで
多義的な解釈が可能なテキストの
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