数式の庭。原型その1/田中宏輔
こころがとらわれているときには
たとえば
砂浜にいる人たちの姿や
まばらに立ち並んだパラソルの様子や
湖面に浮き漂う水藻に目をやっていたりすると
湖面で蒸発する光の音が
聞こえなくなくなることがあったように
数式の花の
変形し展開していく音も
変形し展開していく様子ではなくて
いくつもの花たちの配置を目でとらえ
その配置のうつくしさや
背景の空白とのバランスといったものに
こころがとらわれているときには
聞こえてこないのであった。
これは
内的沈黙とでも呼べばよいであろうか。
いや
沈黙とは
自ら声を発しないことと解すれば
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