数式の庭。原型その1/田中宏輔
 
らえたかのように
わたしのこころが
湖面で反射する光と直接結びつけられたかのように感じて
その瞬間から、自分が光そのものになって
湖面で蒸発していくような気がしたのだった。
少しずつ自我が蒸発していくような
そんな恍惚とした時間を過ごしたのだった。
つぎつぎと自我の層がはがされていくような
無上のここちよさを味わっていたのだった。
そうして、一度
光が湖面で蒸発している
湖面で光が音を立てて蒸発している
という思いにかられると
その日、一日のことだったが
湖面に目をやるたびに
ピチピチ、ピチピチというその音が
耳に聞こえてしまうのだっ
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