数式の庭。─前篇─/田中宏輔
。
ひとつなのだが、ふたつだからである。
その花が変形し展開するとき
その花の影も変形し展開するのだが
まったく異なる形に変形し展開するのだ。
影だけ見ていても美しい花なのだが
空に雲がかかり
影のほうの花がすっかり見えなくなると
影ではないほうの花も同時にとまり
式変形もせず式展開もしないのであった。
*
この花が咲いているときには
数式の庭には風が吹かない。
風がきらいなのである。
多くの数式の花と同様に
この花の花粉は、わたしの目が運び
わたしの手が運ぶ。
考えごとでもしていたのだろうか。
間違えて
ある演算記
[次のページ]
戻る 編 削 Point(16)