数式の庭。─前篇─/田中宏輔
けて
わたしのもとから立ち去るのである。
立ち去られたわたしは
それがなにものであるのか
それがなにであったのかの記憶はないのだけれど
わたしが以前と同じ姿かたちをした記号であっても
けっして以前とは同じ意味内容をもった記号ではないことを
わたしと
わたしに変形を及ぼした、そのものが知っている。
そして、わたしに変形を及ぼした、そのものが
ひとつの魂をもつものであって
そのひとつの魂をもつものが
他の無数の魂と共有するひとつの場に
わたしを置き
わたしを変形し
わたしを新しく生まれ変わらせたことを
わたしは知っている。
それは、変形
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