数式の庭。─前篇─/田中宏輔
 
に目を落とした。
風にブラウスの水色が揺れていた。

その数式の花も
風になぶられ、風をなぶりながら
つぎつぎと色と形と香りを変えていった。

 *

わたしはただのひとつの記号にしか過ぎないのだけれど
わたしはときどき他の数や記号といっしょにされて
一度も訪ねたこともない場所で
思いもしたことのない力でもって変形され
はじめて出くわす相に出現する。
わたしを、それまでのわたしでなかったものにする
その変形の力と、その力の場は
わたしが変形されているあいだにおいては
わたしと一体となっているのだが
しばらくすると
ふっと、力が抜けて
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