数式の庭。─前篇─/田中宏輔
らばって落ちた。
*
しばらくのあいだ
鼻を近づけて
数式の花の香りを楽しんでいると
ふと、気がついた
ぼくが
香りを楽しんでいるのではなくて
数式の花が
ぼくを楽しんでいるのだと
*
数日前につくって
ほっておいた数式が
庭できれいに咲いていた。
その数式の花は
その前につくった、いくつかのものと
まったく同じ数の数字と記号でできていたのだが
花は色と形と香りを変えながら
庭の風景をも変形し
わたしの姿をも変形した。
かぶってもいなかった帽子を手で押さえ
履いた記憶もなかった服の裾に目
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