数式の庭。─前篇─/田中宏輔
庭に数式の花が咲いていた。
近づいて手でもぎとると
数と記号に分解して
手のひらのうえですっと消えた。
庭を見下ろすと
数式は、もとの花に戻っていた。
*
庭に出て
背中を伸ばした。
部屋にこもりきりで
ずっと本を読んでいて
疲れていたのだ。
花のひとつに手をのばして
マクローリン展開した。
すると、数式の花は
めまぐるしく姿をかえ
やがて、ぼくの手のなかで
もとの美しい多項式に姿を戻した。
ぼくは
庭の隅に花を放り捨てた。
たちまち、数式の花は
空中で数字と記号にかわって
庭土のうえに散らば
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