父の隠し部屋/おまる
 
思えばだが、父はなるべく一人になりたくなかったのかもしれない。
あのときの彼が人生で一番いい顔をしていたと思う。
歯はインプラントにし、手術の傷あとは整形外科で直し、目はくっきり二重にし、髪はふさふさしていた。
妹が
「何か人生でやり残した事ないの?」
と聞いた時も、
「ぜんぜん。全国のおいしいものも食べて思い残したことはないよ」
と、自信たっぷりに言っていた。
父は自分のことを侍だと言っていたらしい。
家族の為に、家を必死で守る影の男だと。
あとで主治医から聞いた話だが、母と妹が、付添でソファに寝ている時、父はその顔を見て泣いていたという。
なんだか、かわいそうだ。
日本
[次のページ]
戻る   Point(2)