父の隠し部屋/おまる
 
日本各地の、いろんなところへ行ったと父は語っていた。
北海道はどこどこのお店がおいしい、京都は何々のなんとかがおいしい、宮崎はどこどこに行って、おいしいものを食べた。
沖縄はやっぱり、豚。
病室でくいもんの話ばかりをしていた。
わたしに対しては、照れもあったのかもしれない。
最期の日、車いすでホテルの中華店にいって、料理に箸をつけた矢先、体調が悪化した。
救急車で病院へとんぼ返りして、そのまま昏睡状態となって、逝った。
遺言は「分骨して坊主の親友に渡してくれ」というもので、意味不明だったが、火葬後、本当に謎のスキンヘッドの男が現れて、母が丁寧に分骨し骨を渡した。
直後、その男は失踪した。
おそらくは雇われた何者かだろう。
父の真意はというと、、(お察しください)
父は本当に侍だったのかもしれない。
たまに父が夢に出てくることがあるが、きまって一人でおし黙っていて、一瞥したら、すぐにまたどこかへ去っていく。
黄泉の世界に降りていくのだろう。
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