犬の影/まーつん
は家に帰った
今度こそ
あの思い出と縁を切った
そう思っていた
だが、予想外のことが起きた
翌朝、居間のソファに伸びていると
目の前のカーペットに
大きな黒い染みがあるのに気づいた
滑るような動きで床の上を移動し
音もなく私の足元に
すり寄ってくる
その染みの形は
昨日葬り去った思い出にそっくりで
内側が黒い闇に塗りつぶされ
振り立てる尾
笑う口と垂れた舌
ピンと立った耳、
呼吸で上下する胸元
歩を重ねる四肢
それは唯の染みではなく
生きた影であることに
私は気づいた
その影を、うっかり踏もうものなら
恐ろしく鋭利な感情が
私
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