感光/残滓/ただのみきや
 
一本の樹の中でうわさが広がった
灰の幕屋は綻び 
沈黙は決壊する

降り注ぐことばがことばを
地に開く波紋が波紋を
打ち消し合い 相殺し
延々と生と死を被せ合う
その声は群れ
ずれ重なり つめたく
時の穂先を濡れそぼさせる
瞳は月に似る


遠い夏の感光
紫陽花の花びらひとつ舞い上がり


花を摘む 娘らの
指先を染めるくすんだ藍(あお)
幼い憧れが
毒を帯びるころ
くちびるに
真に受けて
ひとつの憂いへ振れた
幼い羅針のあまりの鋭敏さ


──あの娘はどうなった

{引用=ひとりは川へ身投げした
ひとりは花の汁を飲みすぎて気がふ
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