Pastiche。/田中宏輔
Opus Primum
鳥籠に春が、春が鳥のゐない鳥籠に。
(三好達治『Enfance finie』)
? 初めに鳥籠があった。
? 鳥籠は「鳥あれ」と言った。すると、鳥があった。
? 鳥籠はうっとりとこの鳥を眺めた。
? 鳥はうち砕かれた花のような笑みを浮かべていた。
? 鳥籠から生まれる鳥は日が短く、悩みに満ちている。
? 鳥はその日のうちに出かけて行って、大型活字の新約聖書を買って来て読み出した。
? しかし、神を信ずることは──神の愛を信じることはとうてい鳥にはできなかった。
? すると、ある朝、鳥はこつぜんと姿を消してしまった。
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