雨を呼ぶ/宮内緑
からだだけが覚えている水田の記憶は
ずっと底のほうに沈んでしまっていて
どうしてわたしはこの庭に棲んでいるのか
どのようにして生まれ 辿りついたのか
わからない おしえてくれる親兄弟もいない
ただ気に入った庭木の陰や
紫蘭の根元の湿ったところで
しっぽりしている ひがな一日
呼び覚ましたのは 炎天下が熱した大気
積もりつもった雲がおとした 稲妻と雨
からだだけが覚えていること
雨がばつりばつりと稲葉を打ち
水面が逆毛立ち 水路が踊り出す頃
みなが喜びにつつまれ夜を待った
わたしたちも まだ見ぬ互いを待ち焦がれ
そうしてたしかに出逢ったはずだった
けれども今は
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