由比寺の刀/atsuchan69
 
 群雄割拠の時代が終わろうとしていた。久慈の豪族、佐川義久は隣国の領主たちを自分の城へ招いた。月丸扇の紋章が描かれた屏風絵を背に、広間の上段に義久が座り、宴の席は中段に設けてあった。下段には着飾った遊女たちが出番を待ち、やがて招かれた領主たちの杯へ親しく酒を注いだ。近隣の国で最も力のある島木氏は、背に大きな揚羽紋のある黒と黄の派手な陣羽織を着ていた。おゆいは島木氏にも酌をし、まるで人懐こい猫のように摺り寄っては艶なる色香を添えた。

「島木殿、久慈の酒は如何ですか?」

 おゆいは微笑みながら言った。

「良い酒だ。ましてやそなたのような美しい者が注いでくれるとは、これ以上の喜びはない
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