白紙への長い旅/ただのみきや
や水面の鏡に得も言われぬ自分にすら隠匿された震えをもたらすのだ
創作は破壊であり快楽は悲しみと痛みに裏打ちされる
吐瀉物のごときことばが子気味よいリズムで袋小路の壁に人型の染みを残すと
そこに自らの影を重ねることで絶頂に達し得ない自慰行為が複写されてゆく
そう目撃者ばかりで犯人のいないつかみどころのない憂鬱を鳥籠で飼い
自分を深く愛することで死に誘うまことしやかな唇の鬼火
瞳に触れてジュっと鳴る火獲り蛾のささやきのように
残らず文字の飛び去った詩集を開いて
男は夢を見ている
書く前に白紙があるのではなく
書かれたものが失われて初めて白紙になるのだ
自分が白紙になる
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