白紙への長い旅/ただのみきや
 
灰のように舞い散って
死の比喩を匂わせる それこそ詩に擬態した諦念の羽化であり
紡がれぬ繭から匂う致死的媚薬だろう


残らず文字の飛び去った詩集を開いて
男は夢を見ている

白紙の平原を渡り
やがて白紙の谷にたどり着いた
男はそこで白紙の女をめとった
その女はかつて鳥葬にされた一編の詩であった
男は白紙の岩の割れ目から女をつかみ出した
白紙と白紙に違いを見出すことは簡単なことだ
記号でうまった世界が記号で互いを見分けるように
白紙は白紙で互いを見分けていた
男は白紙の墓となり
男の中で白紙の女は吹雪のように渦巻いた
女は歌った声もなく形もなく
男にしかわから
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