Sweet Thing。/田中宏輔
 
まざまな風体の者たちがいた。生真面目そうな学生や、髪の毛を染めて、鉢巻をした作業着姿の若い子もいた。
 入口から入ってすぐのところにある扉を開いてなかに入った。映画館に入っても、外の暗さと変わらないので、昼に入ったときとは違って、目が慣れるのに時間がかかるということはなかった。一階の座席の後ろに、よく見かけるブルーの大きなポリバケツのゴミ箱と、ガムテープを貼って傷んだ箇所をつくろってある白いビニール張りのソファーが一つ置いてあるのだが、そのソファーの上に、横になって寝ている振りをしている男がいた。もしかすると、ほんとうに眠っていたのかもしれないが。三十代半ばくらいのサラリーマンだろうか、スーツ姿
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