Ommadawn。/田中宏輔
 
な鈴のようなヴイ、南(ナン)京(キン)虫(むし)のように船と船の間をせわしく縫っているランチ、寒々とざわめいている油煙やパン屑(くず)や腐った果物の浮いている何か特別な織物のような波……。風の工合で煙が波とすれずれになびいて、ムッとする石炭の匂いを送った。ウインチのガラガラという音が、時々波を伝って直接(じか)に響いてきた。
 この蟹工船博光丸のすぐ手前に、ペンキの剥(は)げた帆船が、へさき(ヽヽヽ)の牛の鼻穴のようなところから、錨(いかり)の鎖を下していた、甲板を、マドロス・パイプをくわえた外人が二人同じところを何度も機械人形のように、行ったり来たりしている
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