Ommadawn。/田中宏輔
 

 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、海を抱(かか)え込んでいる函(はこ)館(だて)の街を見ていた。――漁夫は指元まで吸いつくした煙草(たばこ)を唾(つば)と一緒に捨てた。巻煙草はおどけたように、色々にひっくりかえって、高い船腹(サイド)をすれずれに落ちて行った。彼は身体(からだ)一杯酒臭かった。
 赤い太鼓腹を巾(はば)広く浮かばしている汽船や、積荷最中らしく海の中から片(かた)袖(そで)をグイと引張られてでもいるように、思いッ切り片側に傾いているのや、黄色い、太い煙突、大きな鈴
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