詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その3。+あとがき/たま
「あら、そうなの?」
とぼけてみたけど、母は母なりにこっそり娘を見ているのだ。的を得ているとおもった。
「そうだ、かあさん。駅裏にね、新しいショッピングモールができてるのよ」
「チョッピングモール?」
「かあさんのほしいものはなんでも揃ってるとおもうけど」
「じゃあ、淡路の無花果あるかしら」
「無花果? そんなのまだ早いわよ。果物はもういいから、とりあえず今夜のおかず。かあさん、ゆうべはなに食べたか覚えてる?」
「ばかだね、おまえ。きのうのことなんかわかんないわよ。あした食べたものなら覚えてるけどさ」
三年前に父を亡くして、母の痴呆はそのころから始まった気がする。痴呆と言え
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