詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その3。+あとがき/たま
た。
「ね、かあさん。お買い物に行かない? なにかほしいものあるでしょう」
「買い物かい? そうねえ……」
母はテーブルの上のりんごをじっと見つめてしばらく思案していた。
「りんごはもう買ったし……」
「果物じゃなくて、ほかにあるでしょう? 今夜のおかずとか……あ、そうだ。春物のカーデガンなんかどう? ブラウスでもいいわよ」
「ブラウスならいっぱいあるじゃない……それにさ、あしたはまだ寒かったわよ」
「あしたは寒くても、きょうはあったかいでしょう。たまにはおしゃれしなきゃあ、ね、老けちゃうわよ」
「いいのよ、あたしだったらもう……圭子、おしゃれするのはおまえじゃないのかい?」
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