詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その3。+あとがき/たま
 
てあった。青森産の玉林だろうか。ひとつ手にとって汗ばんだ鼻に押しつけてみる。
「ほんとだ、いい香りがする……ね、どこで買ってきたの、これ?」
「ほら、あそこ。林果物店……」
 林果物店は私が幼いころにすごした街にあって、果物の好きだった父のために母が通ったお店だった。いまはもうその街を訪ねても林果物店は見つからない。
 母の外出はなるべく避けたかったから、日用品や食料はすべて私が用意して、不要な母の外出を摘まんでいたけれど、仕事のある私にはとても無理な話しだった。ときどき、母は気ままに出かけては、近くのスーパーマーケットで果物を買ってくるのだった。

 久しぶりに母とお昼ごはんを食べる
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