詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その3。+あとがき/たま
込んでいた。新聞は読まない母なのに、折り込みチラシは一枚残らず目を通すのだ。
「かあさん、おはよう」
「あら、圭子……まだいたのかい?」
「きょうは休みなの。ね、ゆうべ言わなかった?」
「ううん、聴かなかったわよ」
頑固なひとは痴呆になりやすいってほんとうだろうか。灯りを点けて母の顔を覗くと、うれしそうに目を細めて言った。
「ねぇ、圭子。きょうはいい香りがするでしょう?」
朝寝した朝はいつも鼻づまりがした。
「なんの香り?」
「あした買ってきたりんごよ。ほら、そこに置いてあるでしょ。甘いわよ、きっと」
リビングのテーブルの上には、浅い笊に盛られた黄色っぽいりんごが置いてあ
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