詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その3。+あとがき/たま
 
てきたりんごでしょう?」とは、言えなかった。いつか私も、あしたのりんごを食べてみたいと夢見ていたからだ。
 今朝も雨みたいだ。カーテン越しの窓の外はそんな気配だった。桜の季節はいつも雨に邪魔されるけど、お花見は好きじゃなかった。久しぶりの休日だし、すべては雨のせいにして春眠を味わうのもいい。たまには御褒美がほしい発育不良の大人だったから。
 九時すぎに目覚めた。母とふたり暮らしの部屋はマンションの五階にあって、休日の午前はパジャマの上にカーデガンを羽織って過ごす。なにひとつお洒落はいらなかった。
うす暗いリビングの窓辺のソファに腰かけた母は、新聞の折り込みチラシを床にひろげて、熱心に覗き込ん
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