詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
 
めると海が見えた。わたしにはすっかり見慣れた瀬戸内式気候のふるさとの海だ。駐車場とビーチの間にはテラスのようなひろい遊歩道があって、軒のひくいビーチハウスが数軒並んでいる。だれが見たって海水浴場の風景だった。
 駐車場の南はしには鉄骨でできたそれとわかるトイレがあった。トイレには棟続きの倉庫が二棟あって、倉庫には海水浴場にひつような用具や備品が置いてあったが、その大半は使途不明というか、まるで埃をかぶったまま放置されたエジプトの王家の遺品みたいだった。それで、向かって右はしの倉庫にはわたしたちの詰め所があった。しごとまえのわたしは、倉庫の入口に置いたパイプ椅子に腰かけて、アイスティを片手にメロン
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