詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
 

もうひとつ、読まなければいけない理由は
このわたしを超えていくものに
出逢いたいからだとおもう
詩歌に物差しはない
このわたしを超えていったものとの
距離をはかる物差しは
わたし自身なんだとおもう
なんとも心細いはなしだけどしかたがない
おのれを信じるしかない
だから、詩人も、歌人もがんこ者ばかりなんだ

とおい昔、赤毛の仔犬をもらってきた
わが家に詩人はふたりいらないから
おまえは歌人になれといいつけて
も吉と名づけた
もちろん、犬が歌を詠むわけではないけれど
も吉とふたりして編んだ十五年分の詩歌は
いまも、おまえの体温をたもちつづけて
裸のままでしか生き
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