鏡像 【改訂】/リリー
 
真剣にバット振って痛烈な当たり
 で歓喜の声を挙げ、一塁に居る八十歳近い男性へ回れ、回れと指示を出す寮
 母。その声が館内にまで響くと、
 「あだちの、リハビリなってるやん」
 食堂ホール前の廊下に出て来た木崎さんの声。若い生活指導員さんと二人が
 並んで、私へ呆れた笑い顔を向けた。

  まだ寮母を辞める決心のつかない私は、この日の午後、病室の人達の足の
 爪を切っていた。
 「病室の人の足は、いつも綺麗やわ」
 常勤の看護婦さんから、そう言われた事があった。
  みんなの爪を切り終えると喉が渇き、新館とを繋ぐ外廊下に設置された自
 販機の前でペットボトルを掴み取る。する
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