鏡像 【改訂】/リリー
 
出来なかった私
 は、母の老いを知らない。母へ出来なかった事を誰かにすることで、償いた
 かった。
 「お前がお母さんを好きでいる、それ以上にお母さんは、お前のこと好きな
 んやぞ。償いなんかよりも、もっと自分を大事にして欲しいんと違うんか
 な」
 親ってのはな! そういうもんや……と言う彼の言葉に説得性があった。

 「佐々木さぁん! 行ける行けるっ!」
  施設の中庭では、自立入居者と軽度の要介助者の人達とで軽量な柔らかい
 スマイルボールを使い野球をしている。事務員さんの結婚式で次長や主任、
 副主任も皆が、留守だった。
  入居者さんに投げてもらった緩い玉を、真剣
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