鏡像 【改訂】/リリー
 
 て行く貨物列車の響きが耳に残った。ある日、晩夏の空の高い所に、白んで
 きた東の光を反射する青みがかった輝色の巻雲に似た雲を見た。暁に怖れを
 なして迷っているのか? あれは、夜光雲かも知れなかった。
  体力の衰えが進む母へ
 「何か、して欲しい事はないの?」
 お見舞いに来る人は、それが言えるのに。私に気持ちの余裕は失われてし
 まっていた。けれども、お便所の洗い場で大きなポリバケツに足浴のお湯を
 溜めている私の背中へ、声を掛けてくれる看護婦さんがいた。
 「患者さんの足を見ればね、全てが分かるものなのよ。」

  享年五十四歳で逝った母は若かったのだ。満足な看護も出来
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