入退院後の日記/由比良 倖
 
、名札を見たけれど、待合室の椅子に戻るときには、その名前のことを全然覚えてなくて、自分が馬鹿なんじゃないかと思った。主治医の先生の名前以外は、まるで思い出せない。覚えようとは、毎回思うのだ。待合室の窓から、大きな木が見えて、冬なのに枯れていないんだな、と思った。自分の血のことには何の興味も持てない。
 時計の針の音が気になってしまう診察室で、主治医の先生に、僕が書いた文章を読んでもらった。その場で読んでもらえたのは嬉しくて、けれど恥ずかしくて、先生が僕の文章をじっと読んでいるのを意識すると落ち着かないので、壁の時計ばかり見ていた。本当は針の音はそんなに大きくなかったのかもしれない。その後、やたら
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