入退院後の日記/由比良 倖
 
になってきて、謝りそうになって、取り敢えず、服が背丈に合っているか気にしている人みたいな動きをしていたら、「次は採血ですよ」と言われたので、「あ、はい」と答えた。
 誰も僕の挙動不審なんか気にしていないらしくて、だから落ち着けばいいのに、と思っても、何か失敗して、周りの人たちの手はずを狂わせるんじゃないかと感じる。十分自分はまともだ、と思考しても、思考が感情に追いつかない。何も変なことなんか起こらない。看護師さんの手はアルコールを多く触っているからか、少し乾いていて、僕の手よりもずっと寒そうだった。血を抜かれながら、長年病院に通っているのに、看護師さんの名前を誰ひとり覚えていない、と気付いて、名
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