私のための祈り/佐々宝砂
 
これは私のための祈りであって、あなたのためのものではない。

山を歩く。桐の花がそろそろ終わりで、空色だった花は汚れた茶色に変わっている。そのかわり茨が満開だ。真っ白な花は鮮やかな美しさを持たないが、つよい芳香をあたりにまき散らす。芳香に誘われて虫がやってくる。花虻、蝿、ジガバチ、ガガンボ、けして愛らしいとは言えない虫たち。その虫を食べようとして、カナヘビが地べたに待ちかまえている。

私はたぶん、なにもかもが好きなのだ。それは確かなことだ。私は桐の花も茨も虻もカナヘビも好きだ。その群に、私はあなたを含めよう、あなたの悪意と、あなたの悲しみと、あなたの小さな自我を。

川岸を歩く。真っ
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