メモ1/由比良 倖
 
うと決意して、一気に枕を裏返したら、意外なことに、何にもいなかった。

 そういうホラー的な世界にいて、僕は数ヶ月で何故かそこから抜け出せたけれど、実際に幻覚に悩まされている間は、そのことは、誰にもひと言も話さなかった。狂ってると思われたり、問答無用で入院なんかになったら、もっと悪化しそうだったので、ただひとり、じーっと暗い、恐怖のプールの底にいた。幻覚が去ってから大分経って、笑い話に出来るくらい平静を取り戻してから、幻覚について人に話したり、本当に怖かった、と冗談半分くらいの口調で言ったり、書いたりした。ここに書いたエピソードは一例なんだけど、ともかく幻覚の世界の中心にいながら、しかも全部幻
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