メモ1/由比良 倖
界で孤立したたくさんの人々が、自殺を試みようとしている。儚い希望にすがって、何とか惨めな生を長らえている人だっている。僕は三十分前、首を吊ろうと考えた。
でも、この世界からいっとき離れられるなら、死ななくてもいい。
タバスコの瓶を裏返すと、こう書かれていた。
「100万羽の小鳥、飛び立つ」と。
文学と音楽が、僕を生き長らえさせてくれる。教義的な言葉や、論理は要らない。僕が欲しいのは人間の感情。ロシアやイタリア、アメリカの小説があると落ち着く。
古い窓ガラスに、霜の花が咲く冬。
街が一面光に満たされ、噴水の水しぶきが白昼夢のように輝く夏。
僕はそこにいない。
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