メモ1/由比良 倖
イなようなお香の匂い。クーラーの音と空気清浄器の音、少し薄い空気。……ヘッドホンを付けていると、他の何ものも関係ない、音楽の世界に行ける。
この世が真実かどうか分からない。けれど世界が何であれ、すぐに途方に暮れてしまうことは変わりない。天国なんて無い。今この場所だけが素晴らしい世界になり得る。
ぱらぱらと本を捲ることの快感。ずっと忘れていた活字の感覚。
夜、ひとりでノートに向かっていると、孤立感が和らいでいく。万年筆が紙を擦るかさかさという音、空気清浄器(好きだな)の音だけが聞こえる。窓を閉めているから、高速道路の音も聞こえない。ステレオの青い電光表示が、現在時刻([2:2
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