メモ1/由比良 倖
くことで自分の記憶の小路を旅するとか、そういうリリカルなことではなく、単純にキーを叩くのが気持ちいいという、ただのフィジカルな事実。煙草の火を丁寧にもみ消す。相変わらずぬるいコーヒーばかり飲んでいて、スピーカーからはアニメの歌の甘い丸っこい声が流れている。歌声に紛れて、クーラーの音、空気清浄器の音が微かにかさ付いて聞こえる。冷蔵庫は独り言がうるさいので、隣室に移動させた。
音楽をジャズに換える。ジャズは20年近く前から好きで、音楽を聴けなかったここ12年間を除けばよく聴いていたのに、未だに特に好きなミュージシャンがいないというか、あまり演奏者による違いが分からないし、テナーサックスとアルトサッ
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